乳がんの転移で一番多いのは,腋窩リンパ節(わきのリンパ腺)への転移です。そのため,乳がんに対する根治手術を行なう場合には,腋窩リンパ節郭清(わきにある15~30個のリンパ節を全て切除する手術)が不可欠とされてきました。しかし,腋窩リンパ節郭清を行なうと,術後リンパ液の溜まりがなかなか引かなかったり,腕が腫れたりするなどリンパ節郭清が原因と考えられる術後合併症や後遺症が起こることもあります。したがって,リンパ節転移のある乳がんのみに郭清を行ない,転移がない場合には郭清を行なわないのが理想と考えられます。そのためCT検査,超音波検査などさまざまな方法で,術前に腋窩リンパ節転移の有無を診断する試みが行われてきましたが,確立されたものはないのが現状です。
これに対してセンチネルリンパ節生検は,手術中にかなり正確に腋窩リンパ節転移の有無を診断できる方法として最近注目されています。このセンチネルリンパ節を見つけ出して摘出するのが,センチネルリンパ節生検で,このリンパ節に転移がなければ,そのがんのリンパ節転移はないのでリンパ節郭清が不要になります。
センチネルリンパ節は,見張りリンパ節または前哨リンパ節と訳されることもありますが,多くの場合,外来語と日本語を合わせた用語としてセンチネルリンパ節が用いられます。センチネルリンパ節とは,がんのもっとも近くにあるリンパ管に入ったがん細胞が最初に流れ着くリンパ節のことです。
センチネルリンパ節生検とは、がんのまわりに色素や放射性物質などを注入して、手術中にセンチネルリンパ節を探しだし、このリンパ節に転移があるかどうかを調べることをいいます。
センチネルリンパ節に転移がない場合は、残りのリンパ節にも転移がないと考えられるため、転移のない患者さんのリンパ節の郭清を省略する目的で行います。
しこりの大きさが3cm以下で、術前の画像診断などでリンパ節転移がないと考えられる人が手術適応です。
◇利点◇
不必要な腋窩リンパ節郭清を省略し、術後に腕のむくみ・腕の知覚障害・運動障害などの合併症を減らすことができる。
◇問題点・課題◇
偽陰性(他のリンパ節への転移がある)が1~2%ある。(当科のデータ)
センチネルリンパ節を見つけだす方法として,色素を用いる方法とアイソトープを用いる方法がありますが,両方を同時に行なう方法(併用法)が,センチネルリンパ節の発見率も高く,転移の有無も正確に診断できます。充分な経験のある施設では,センチネルリンパ節生検により95%以上の精度でリンパ節転移の有無が診断できます。当院では専門の乳腺外科医と病理医との連携でより正確な診断を実施しています。
一般的には,乳がんの大きさが1.5cm以下で,触診で腋窩リンパ節を触れない場合,センチネルリンパ節生検を行って,転移があれば郭清を行ない,なければリンパ節郭清を省略できるとされています。今後は,適応が拡大されてより多くの乳がん患者さんのリンパ節郭清を省略することが可能になるよう期待されています。